幼馴染との恋愛について2
- 2011/09/05(Mon) 20:55 -
智は顔立ちはそこそこ整っていたが女の子からモテていたという話は聞かない。中学までの彼の学生姿しか知らないが、いつもぼーっとしているような印象しかない。たまに先生にあてられても良く答えられなかったりもしたのだろうと思う。
智が一番仲良くしている友達というのが、私を置いて他に臼井くんぐらいしか思いつかないのもその要因の一つかもしれなかった。智は自宅に友達を招いたこともなかった。同じように臼井くんも智が一番の仲良しらしかった。しかし智が私の家になんの遠慮もなく入ってくるのと違って、臼井くんがうちに遊びにきたりするようなことは一度もなかった。幼馴染かと聞かれれば智も臼井くんも同じく幼馴染に違いはなかったが、親近感で言えばそれは段違いだった。


高校の修学旅行に行ったとき、京都の土産屋で偶然臼井くんと鉢合わせたことがあった。彼は班のメンバーと一緒にいたらしいが、店内では1人で好き勝手に見ているようだった。いつもと同じようにくまみたいな顔と体でにっこり笑って会釈してきたので、私は珍しく臼井くんに話しかけることにした。
「お土産?」
「あ、うん。智に」
真っ黒でざっくばらんな髪型をした臼井くんがおっとりとした口調で答えた。私は臼井くんと同じものにならないために、彼がお土産を決めるまで付かず離れずの距離にいることになった。彼は食べ物を購入していたようなので、私は携帯ストラップを買うことにした。

智の修学旅行は私と少し違う時期にあった。彼の旅先は北海道のようだった。それは智本人から聞いたのではなく、彼のお父さんから聞いた話だった。智は私に学校での出来事をほとんど言わないが、特別言うようなことはないのだろうとなんとなくわかっていた。
「茶智ちゃん」
「智?どうしたの?」
「今修学旅行してるんだけど、お土産なにがいいかなと思って」
昼休み、学校にいるときに鳴った携帯からはいつものぶっきらぼうな声がした。
「気にしなくていいんだよ。お父さんには買った?」
「買ってない。いらないと思う。茶智ちゃんは?」
「なんでもいいから買ってってあげなよ」
「茶智ちゃんは?」
「じゃあね、北海道限定の食べ物とかでいいよ。お菓子とか、そういうの」
「わかった」
それだけ告げると電話は切れた。その後はまったく音沙汰がなく、次に連絡が来たのは彼が本州に戻ってきたときだった。お土産を渡すというので、彼の部屋で待つことにした。

智の部屋は本当に特徴のない部屋だった。必要最低限なものしか無い部屋は、智が自宅の職業にしか興味が無いことを告げているようだった。その部屋の壁に小さなコルクボードがぽつんと飾られていて、コルクボードにも一枚の紙切れしか留められていなかった。
目をとめるとそこに書かれていたのは私の携帯番号だった。そうしてその紙が、智に一番最初に番号を教えた際に書きなぐったままの紙であることに気づいた。二年の月日にその紙は色褪せていたので、別の紙に書き直してあげることにした。
「ただいま」
私が部屋にいることに全く関心がないかのような態度で智がいつもと変わらない態度で部屋に入ってきた。おかえりと告げると、大きな鞄からさっそく荷物を取り出して私の前に積み重ねていく。他に荷物はないのかというほど地域限定のお菓子の箱が並んだその光景に、どこまでが私の分なのかを尋ねた。
「全部茶智ちゃんの」
「これ全部?お父さんには買った?」
「買った。スイちゃんにも買った」
スイちゃんとは臼井くんのことだった。智は誰かを呼び捨てに出来ない子だった。
「ほんとにこれ全部もらっていいの?」
「だってなにがいいのかわかんなかったから」
じゃあ一緒に食べようねと言うと智はうんと言って頷いた。
「修学旅行楽しかった?」
「楽しくなかった」
「どうして。せっかく北海道だったのに」
「茶智ちゃんいないし、楽しくなかった」
智は思っていることを素直に口にする。しかしそこにはなんの裏もないので、私がいなければ楽しくないと思う気持ちがどういった意味なのか、智には全く理解できていなかった。そして私も無理に智に気づかせようとも思わなかった。智はいつだって私の半身だったので、この先も智がそういった存在であることを全く疑いもしなかった。



希望の女子大に受かってからも智の弁当は毎日持たせられた。智は当然のごとく進学はせずに店に入るようになった。臼井くんも家のうなぎ屋を継ぐ修行をしているようだった。智の家の食堂はたまに常連さんの注文を配達することもある。エンジンが止まりそうなスーパーカブで配達をするのが智の日課になった。私は花の女子大生活を満喫していた。

あるとき酔っ払って帰宅したことがある。コンパといえばコンパだが、私は今も昔も他の男にはさして興味がなかった。付き合いもあったので参加したのだった。私は酔っ払ったまま家に帰るのはなんとなく気が引けて、先に智の家に寄る事にした。食堂は夜もやっているのだが、私が店に入った頃はもう店じまいの時間だった。
「おじさん、もうだめ?」
「お、さっちゃんか?いいよいいよ寄ってけ。智!さっちゃんだぞ!」
智のお父さんが厨房にいる智に声を掛けると、智がそこから顔を出した。水を持ってきてくれるのと同時に、外ののれんを店の中に片付けた。私が酔っていても特に気にしたそぶりは無かった。
少しすると臼井くんが店の入り口から入ってきて、酔っている私に驚いたような顔で向かいの席に座った。どうやら臼井くんはいつも店じまいしたあとに、ここで夕飯をご馳走になっているらしかった。毎日うなぎじゃ飽きるのかしらと思った。
一緒にごちそうになったあと、隣だというのに臼井くんが送ってくれると言い出した。智は店の片付けがあるので、いいよいいよと断りながらも結局臼井くんはうちの玄関まで見届けてくれた。ありがとうと言うと、くまみたいな臼井くんはなぜか困ったような顔をして、言いづらそうに口を開いた。
「茶智ちゃん、あの…」
そこで唐突にいけないと思った。全部に合点がいった。なぜ自分が臼井くんと智のように仲良くならなかったのか、なぜ彼は私と同じ高校に来たのか、なぜ私は智と臼井くんを全く区別して隔たりを作っていたのか。
聞いてはいけないと思ったが、臼井くんの言葉の方が早かった。好きなんだと言われた私はその気持ちをもうはるか昔から知っていて知らないふりをしてきたのだと自覚した。私が答えるよりも早く、臼井くんはごめんねとお人よしな顔のまま頭を下げて二軒隣の自分の家へと戻っていった。私は驚くよりも、あの言葉を告げられる隙を作ってしまった自分を後悔した。




つづく
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